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カーラジオの歴史HEADLINE

2012/12/18

カーラジオ用ICをメインにこれまでの流れ

 35年前から現在までの、カーラジオの変化を(カーラジオ用のICをメインに)整理してみました。なお、私の記憶の範囲で書いていますので、各項目の時期については多少のずれがあるかもしれません。

1977年
●ミュウ同調+メカプリセット
●ディスクリート部品と単品ICで構成

今から35年ほど前、私がカーラジオの仕事を始めた当時は、同調方式はミュウ同調方式という、コイルのコア位置を変化させてインダクタL値を変える方式でした。このミュウ同調にメカ式のプリセット装置を組み合わせて、放送局の選局をしていました。
 まずダイヤルを回して放送局を選び、つぎにメカ式のプリセットボタンを引っ張ってミュウ同調用コアの位置を記憶させておき、再び放送局をよび出す時はプリセットボタンを押し込んでコア位置を記憶させておいた位置に戻す、という感じです。

 カーラジオでは、走行中にダイヤルをまわして選局することは困難ですから、プリセットボタンによる選曲装置が必要だったのです。昔は電子同調ではなかったためこのようなメカ式プリセットになっていました。

 当然、同調ずれはおきやすく、現在のPLLによる電子同調に比べると特性は悪かったです。

なお、一般ラジオでは、プリセットによる選曲は必須ではなかったため、バリコンで容量C値を変化させて同調する方式が一般的でした。今でもポータブルラジオや小型のラジカセなどでは、バリコンによる同調方式が使われています。

 また、この時期の部品構成は、フロントエンド部などはディスクリート部品で、またIF部やMPX部などはICで構成されていました。


1978年
●バラクタによる電子同調
 初めはボルテージシンセサイザ、その後PLLシンセサイザ
●単品ICで構成、東京三洋(三洋半導体)製が圧倒的

1978年頃から、バラクタ(電圧可変容量ダイオード)による電子同調方式に変わってきます。電子同調も初めのころはPLLシンセサイザではなく、ボルテー―ジシンセサイザといって、DACにてDCを作り出し、その電圧をバラクタに印加して同調する方式でした。PLLのようにロックしているわけではないので、同調ずれは発生しますが、メカ式のプリセットに比べたら同調ずれは小さく、スペース的にも操作性でも大きなメリットがありました。

その12年後、PLLシンセサイザ方式になって同調ずれは無くなり、現在もこの方式が続いています。

この頃の部品構成は、それまでディスクリートで構成していたブロックもIC化が進み、単品ICの組み合わせで構成されていました。

つまり[FE][IF][ノイキャン][MPX][AM]5ヶのICで構成され、ICの値段は、各150円位だったと思います(ノイキャンだけはパテントの影響で250円位していました)。

なお、この頃のラジオ用ICは、東京三洋(現在の三洋半導体)が圧倒的に強く、市場を引っ張っていました。個々のICの完成度が高く、カタログには載っていないような特性までしっかりと詰められていたのです。


1987年
●単品IC(FE,IF,ノイキャン,MPX,AM)を1チップ化

 1987年ころには単品IC5ヶを1チップにまとめたICが登場しました。

特性的には単品IC時と同じです。単品ICで抜群の完成度を持っていた三洋(三洋半導体)の強みが続きます。

 なお、この時期のチューナーパックは、それまでのFMのフロントエンド部のみのパックではなく、カーラジオ部(カーチューナー)全体をパック化にするようになりました。


1991年
バスコントロールにて各種設定を制御するIC

 1991年頃から、IC内部にDACを搭載し、バスコントロールで制御するICが出てきます。パソコンのGUIにて各種設定を自由に変更できるようになりました。

 具体的な制御箇所は、「RF部の同調部」「シグナルメータ電圧部」「FM復調部」「ソフトミュート」「ハイカット」「セパレーション」「ノイズキャンセラ設定」「PLL部設定」その他多数です。

 パソコンにIC制御用のGUIソフトをストールし、パソコンにて設定変更しながら特性を検討し、実際の製品時には、設定値を記憶させたEEPROMをチューナーICと一緒に搭載して使います。

この時期からICメーカーは制御ソフトの開発要員も必要になってきました。


1999年
●BiCMOSプロセスを用いたPLL内蔵のIC

1999年頃からバイポーラとCMOSを、同一チップで構成するBiCMOSのプロセスのICになってきます。そのため、PLL部もチューナーICと同一チップで構成できるようになりました。また、MOSFETを使うことにより、超ハイインピーダンスの入力回路が可能になり、外付け容量の内蔵化や小型化が可能になりました。

この頃からフィリップス(NXP)やSTマイクロのICが目立ち始めます。


2000年
●フィリップス(NXP)の「FMIF帯域制御フィルター」「IQMIX」
 「ワールドワイド対応」IC

 2000年ごろ、今迄の流れを変えるようなICが出ました。フィリップス(NXP)製のTDA6848というICです。このICは下記のような(それまでのICと違う)特徴を持っていました。

1.   FMIFフィルター帯域幅制御

2.   IQMIXによるイメージキャンセル

3.   VCOAM/FM共用、まはFMはJPNbandのみ1/3分周、他は1/2分周にすることよるワールドワイド対応

4.   高性能AM

 個々の技術は、単品ICや他の受信機で実用化されていた技術ですが、カーラジオ用の1チップICにまとめ、しかも完成度が高いICでした。

 このIC以降、他のカーラジオ用ICメーカーはフィリップス(NXP)のあとを追いかける展開になり、現在もこの展開が続いています。


2001年ごろ
●IF以降をデジタル処理のIC (ハード構成やDSP構成)


2001年頃には、IF以降をデジタル処理のチューナーがでてきました。

 放送そのものは従来と同じアナログ放送ですが、IF10.7hz450hz)をADCにてデジタル変換しデジタル処理した後、DACでアナログ信号に戻してL、Routに出力するもので、フィリップス(NXP)や三洋、NEC(パイオニアのカスタム)、STマイクロなどが手掛けていました。

ディジタル処理するメリットは、特性的には「狭帯域でばらつきの無いIFフィルター」が構成できるのと、「S/N、歪率が良くなる」ことです。

一般の消費者にとっては、アナログ放送をデジタル処理してもほとんどメリットは感じられません。しかし、(他のデジタル機器と同じように)初期は開発費やICコストがUPするものの、その後大幅なコストダウンが可能になり、やがて、「安く」「外付け部品が少いため小型の」「ばらつきもない」カーラジオの生産が可能になっていくことが期待できます。


2007年
●シリコンチューナーIC

2007年頃には、NXPからTEF6606というアナログ処理のICで、外付け部品の大幅削減し、特性面でも、ローコストのカーラジオなら問題ないICが出てきました。

いわゆる、シリコンチューナーと呼ばれるもので(携帯機器用や一般ラジオでは既に一般化していたものの)カーラジオでは高性能が要求されるためこの頃まで使えるICがありませんでした。

RF段の同調回路は持たずにBPFのみ、LNAは内蔵、IFフィルターも内蔵ですが、従来ICに近い特性を持っていました。

2012年
●フルCMOSによるDSPチューナーIC

2012年にNXPから、RF部をCMOS化し、IF以降のDSP部と1チップ化したICが発表されました。既に量産も開始されていると思われます。

まだ実物の特性を見ていませんが、RFCMOSで構成した場合、バイポーラ時よりも感度や妨害特性が劣ることが考えられますので、当面はローコスト向けしか使えないと思います。

しかし、やがて特性改善されてカーラジオの標準ICになる可能性があります。

最後に
2012年12月現在の状況

現在のカーラジオ用ICは、ローコストタイプは、アナログ処理のシリコンチューナータイプが、ミドルコスト以上タイプは、IF以降をDSPでデジタル処理したタイプが主流になっているようです。

ICメーカーは、NXPが先頭を走っています。STマイクロや三洋半導体がその後を追いかけている感じです。シリコンラボラトリーやリコー(かつての新潟精密)も、フルCMOSタイプのチューナーICを以前から量産していますが(携帯用や一般用のラジオ用では売れているものの)カーラジオ用では特性面で不十分なのか、あまり売れていないようです。

また、かつてラジオ用ICを生産していた東芝やパナソニックは、既にこの分野からは撤退しているようです。